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執筆者の写真水越朋/Tomo Mizukoshi

隅田川の赤い実

隅田川の川沿いを歩いている。

何か考えたかったり行き詰まったり、気晴らしに、元気な時もそうじゃない時も、わたしは川や海へ向かう。なにかと水辺に引き寄せられる。視界が広がり遠くまでよく見える空間と流れる水、吸い込まれて自分の中に大きなスペースができるように、気持ちが落ち着いていく。


川の水面ギリギリを鳥が真っ直ぐ羽ばたいて通り過ぎていった。天気はくもり、時々雨。黒い水面が揺れて、乾いた皮膚のような細かい波模様ができている。


川沿いを歩いていたら行き止まりになってしまった、神田川の合流地点だ。

フェンスと立入禁止の看板がかかっていて先には進めない。

引き返すにも別に急いでいないし行き止まりということは人もこないだろうからゆっくりしていこうと川に近づくと、フェンスの向こうに赤い実をつけた植物が生えているの見つけた。ラズベリーのような、いかにも食べられそうな見た目に心がくすぐられる。

この口に入れたい欲求は食欲ではない。この行き止まりに生える植物を食べることで、同じ生物同士として接点が生まれるような、そこに秘密めいた取引があるように感じて、それがドキドキするのだ。川を眺めながらその行き止まりの何もない場でボーとしながらしばらく悩んだが、今回は食べずに引き返した。食べなかったけど、食べる可能性があるというだけでも、そこに赤い実がなっていることを知っているだけでも、何か繋がりをもったのだろうか。

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