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執筆者の写真水越朋/Tomo Mizukoshi

電車の虫

電車に乗っていると、突然首の後ろがもぞもぞっとする。ヒェッと反射的に手で首を触ると、なにかに触れる。とっさに掴んだ手を覗き込むとエメラルドグリーンの綺麗な虫が収まっていた。

さっき目の前に座っているおじさんおばさん達が必死に振り払っていた虫だ。このまま電車にいると潰されるか踏まれるかしてしまいそう、手の中に空洞ができるようにしてそのまま虫を掴んでおく。降りる駅までもう少し。一緒に降りてどこか緑のあるところに放してあげたい。

しかし手の空洞はぴったりと閉じるのはなかなか難しくて、指の隙間から出てきてしまう。モゾモゾと手の中で生き物が動いている感触がする。わずかな隙間から抜け出ようとする、その意思が触覚で伝わってくる。右手から抜け出した虫を左手で掴む。左手から抜け出た虫を右手へ。お互いモゾモゾと。電車はまだ駅に着かない。

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